人生で最も印象的だった「中山虫送り」。小豆島・中山千枚田の年中行事は一見の価値あり

日本には、その土地土地に、古来より伝わる年中行事があります。
私は仕事柄、地元の年中行事をたくさん見てきましたし、その地にしかなかったり、由来や目的は同じでも表情を全く変えたりする年中行事に惹かれ、さまざまな地のそれを見てきました。
そんな私が人生で最も印象的だったと思う年中行事が、小豆島中山地区の「虫送り」です。

今回は、この行事の魅力を徹底リポートします。

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撮影/高橋陽子

こんにちは。愛媛在住のフォトライター高橋陽子です。
今回は、四国から船で渡り、瀬戸内海に浮かぶ離島「小豆島」へ。
ずっとずっと「中山の虫送り」をこの目で見たかった私に、ついにその日は訪れました。
見終えた今、思います。人生で最も印象的な年中行事だったと。
その様子を、たくさんの写真とともに余すことなくお届けします。

舞台は日本の棚田百選にも選ばれた「中山の千枚田」

小豆島の真ん中、中山地区。山股に沿う8.8ヘクタールの丘陵地に、700枚を超える大小の棚田が広がり、「中山千枚田」と呼ばれています。
中山千枚田は、南北朝時代から江戸時代中期にかけて造られたと言われ、先人たちが急な斜面にコツコツと石積みを施し出来上げたもの。耕作者の高齢化や後継者不足が進む中、今なお守り続けられています。
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撮影/高橋陽子

標高250メートルから150メートルにかけて、湯舟山から見事な曲線美を描き、香川県内で唯一「日本の棚田百選」 に選定。棚田の1つ1つに大きく小さく空が映り、初秋には黄金色に輝く稲穂が頭を垂れます。
この地で、約300年前から伝わる年中行事。それが「中山虫送り」です。

棚田を灯火が下る「中山虫送り」

中山虫送りが行われるのは、夏生(夏至から 11日目)の日。害虫を退治してその年の豊作を願うため、竹の松明に火を灯した「火手(ほて)」を田にかざしながら、「とーもせ、灯せ」の掛け声とともにあぜ道を練り歩きます。
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撮影/高橋陽子

地元住民はもちろん、県外からも大勢の見物客が訪れる、小豆島を代表する行事の1つとなっています。そのため近年では、半夏生の日ではなく、7月の第1土曜日開催を基本としているようです。

日本アカデミー賞10冠 映画「八日目の蟬」に登場

この中山虫送りを一躍有名にしたのが、日本アカデミー賞10冠の2011年公開映画「八日目の蟬」です。映画の中でも印象的なシーン「虫送り」が撮影されたロケ地として、脚光を浴びました。
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撮影/高橋陽子

中山虫送りは、実は一時途絶えていたのですが、この映画「八日目の蟬」をきっかけに復活。以来、地元の人々によって保存育成されています。
全国的にも知られるようになった今では、観光客も参加できる行事となり、県外から駆けつける人も。その幻想的な光景は、大勢の見物客を魅了しています。

2017年の中山虫送りは7月8日

101585:2017年の中山虫送りは7月8日

撮影/高橋陽子

今年の中山虫送りは7月8日。当日の天候は曇り。日中は時々小雨が舞い、開催時刻の天候が心配されながら、地元の人々によって準備が着々と進められていました。
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撮影/高橋陽子

私は少し早めに現地に着き、明るいうちにロケハンをかねて棚田を散策。
実際に歩いてみると、所々坂道がキツく、ヒールやサンダルなどでは上り下りするのが大変なので注意が必要です。
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撮影/高橋陽子

虫送りの時期は、ちょうど田植えが終わり育った稲が、まるで緑の絨毯のように棚田を飾ります。
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撮影/高橋陽子

こちらは棚田を下から見上げた光景。棚田には、稲が青々と育っています。

祭りは五穀豊穣と害虫退治のご祈祷から

101589:祭りは五穀豊穣と害虫退治のご祈祷から

撮影/高橋陽子

18時45分。湯舟山。お祭りの前に、住職が五穀豊穣と害虫退治のご祈祷を行います。
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撮影/高橋陽子

ご祈祷が終わると出発準備に向かいます。ご祈祷で焚いた火を、住職が持って下まで移動。種火を移し、出発のときを待ちます。
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撮影/高橋陽子

今年用意された火手は約350本。付き添いを含め約500人が参加し、カメラマンなど見物客は約150人も。
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撮影/高橋陽子

スタートは、急斜面を下るコース「小豆島霊場44番札所湯舟山」と、なだらかに下るコース「荒神社」の2カ所から。両所の準備を整え、19時。同時にスタートです。
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撮影/高橋陽子

列をなす参加者。一人一人松明に火を灯していきます。
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撮影/高橋陽子

この日は、まだ少し空が明るい時間に始まりました。「とーもせ。灯せ」の掛け声とともに、松明が一つ、また一つとその数を増やします。
心配していた雨は大丈夫でしたが、少しグズついたお天気の中、日中パラついた雨に濡れて滑りやすい足元を気にしながら練り歩く参加者の火手の列が続きます。
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撮影/高橋陽子

100メートルほどの勾配がある棚田を、ゆっくりと一歩一歩降りて行く参加者。

一面の棚田にゆらめく光の行列

101596:一面の棚田にゆらめく光の行列

撮影/高橋陽子

火手の揺らぎは、どこか哀愁に満ちていて、新緑の稲が美しい千枚田のあぜ道を行き交う歩き手の姿を、よりいっそう情緒的に魅せてくれます。
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撮影/高橋陽子

美しい棚田が、ゆっくりと夕暮れに青く沈むころ、「とーもせ、灯せ」の声をかけながら、列をなした火手の光がゆらゆらと揺らめきながら動きます。なんとも幻想的な光景です。
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撮影/高橋陽子

真っ暗の中、ゆっくりと棚田の間を降りていく火手の行列。
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撮影/高橋陽子

古くからの姿をとどめたまま、その価値を地元の子どもたちや全国の観光客に伝え続ける中山の虫送り。
他のそれとは一味違い、幻想的な光景を堪能できる、私にとって人生で最も印象的な年中行事でした。

中山千枚田への行き方

101600:中山千枚田への行き方

撮影/高橋陽子

高松港から小豆島土庄港までフェリーで約1時間。高速艇なら約35分。
土庄港からは車で20分。路線バスで約25分、「中山春日神社」下車徒歩すぐ。
中山の虫送り当日は、イマージュセンターから中山春日神社まで無料マイクロバスがピストン運行。
ちなみに、高松から小豆島へは、土庄港のほかに草壁港行き、池田港行き、高松東港から坂出港行きのフェリー有。本州方面からの場合は、岡山、姫路などからアクセス可。

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撮影/高橋陽子

小豆島の玄関口、土庄港。瀬戸内国際芸術祭で設置されたアートモニュメント「太陽の贈り物 /崔正化 」がお出迎えしてくれます。

「中山虫送り」をあなたもその目で

101602:「中山虫送り」をあなたもその目で

撮影/高橋陽子

念願だった「中山の虫送り」。高い期待を持って出掛けた今回の旅でしたが、その期待をも上回る旅になりました。
日本の原風景広がる中山の千枚田は、その景観だけでも十分です。その棚田を、豊作を願って火手が列をなし、掛け声と共に下っていく。その光景は、来年も、再来年も、毎年でも、この肌この目で味わいたい絶景です。
ぜひ、一生に一度はこの地に立って見てください。この興奮をきっと、あなたにも共感していただけるはずです。