雄大な山々と自然に囲まれた神話の里「霧島温泉」と歴史的スポット

霧島錦江湾国立公園は1934年に国立公園に指定されましたが、この年がわが国の国立公園指定の最初の年。富士箱根伊豆国立公園が1936年の指定ですから、日本の象徴とも言える富士山より天孫降臨の神話のある霧島のほうが古いということになりますね。霧島にはいくつか山がありますが、なかでも新燃岳は今もさかんに噴煙を上げている活火山。錦江湾に浮かぶ桜島とともに吹き上げる噴煙を競っているようにも見えます。地下のマグマによって温められた地下水が温泉の源泉ですから、霧島にはいくつもその源泉があり「霧島温泉」はその総称。霧島連峰の大自然に囲まれた温泉につかりながら、神話の世界を巡ってみることにしましょう。

霧島市には温泉郷が4つもあります

霧島市には温泉郷が4つもあります

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かつては姶良郡(あいらぐん)霧島町だった霧島も、今は霧島市。
周辺のいくつかの町が合併してできた霧島市ですからその広い市域に温泉郷が4つもあるのですよ。
かつての霧島町の中央駅は日豊本線の霧島神宮駅。
そこから霧島神宮に向かう途中にあるのが霧島神宮温泉郷。
この温泉郷から少し北西に行ったところには2つ目の霧島温泉郷があります、この2つの温泉郷は霧島の山地にありますが、ここからからかなり下ったところにあるのが肥薩線の霧島温泉駅。

霧島温泉駅は天降川(あもりがわ)の河岸にありますが、この川を少し下ったところに和風旅館の建ち並ぶ妙見・安楽温泉郷があり、坂本龍馬が「新婚旅行」に来たとか。
天降川をさらに下ると西郷隆盛も好きだったという日当山(ひなたやま)温泉郷。
ここまで来ると、「霧に浮かぶ島」にその名前の由来がある霧島の山々よりはむしろ錦江湾に近くて、日当山温泉郷は鹿児島市の奥座敷とも呼ばれているのですよ。
近くに国分駅がありますが、これが現在の霧島市の中央駅ですね。

霧島神宮には瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)が祀られています

霧島神宮には瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)が祀られています

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「神宮」と「神社」の違いを知っていますか。
わが国で最大の「神社」というと出雲大社ということになるでしょうが、ここに祀られている神は大国主命(オオクニヌシノミコト)。
国譲りの神話で知られていますが、10月には日本全国の神々が出雲大社に集まり神が不在になるため10月は神無月(かんなづき)と呼ばれています。
「神宮」は皇室に関係する神々を祀るところで、明治天皇を祀る明治神宮がすぐに思い浮かびますね。
霧島神宮に祀られているのは天照大神(アマテラスオオミカミ)の孫である瓊瓊杵尊。

瓊瓊杵尊は高天原(たかまがはら)からこの地上に降りてきたのですが、それを天孫降臨というのですよ。
この瓊瓊杵尊の曽孫の神日本磐余彦尊(カムヤマトイワレヒコノミコト)が九州から出て、現在の奈良県にある橿原神宮で即位して神武天皇になりましたが、これが現在の天皇の遠い祖先の初代天皇。
霧島神宮は大和朝廷のルーツということですね。
火山があるために霧島神宮の社殿は何度も火災にあっていますが、現在の社殿は1715年に薩摩藩主島津家によって寄進されたもの。

瓊瓊杵尊は高千穂峰(たかちほのみね)に降臨しました

瓊瓊杵尊は高千穂峰(たかちほのみね)に降臨しました

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霧島神宮から国道を上ったところに高千穂河原がありますが、これは高千穂峰に登るための登山基地。
山頂の火口から噴煙を上げている活火山とは対照的に、鹿児島県と宮崎県の県境にある高千穂峰は富士山と同じ成層火山。
富士山と同じように山頂まで登ることができるのですよ。
火山ですからまったく噴火しないわけではないのですが、1913年の噴火以来高千穂峰は静かにその美しい山の姿を見せてくれていますね。

神話時代に葦原中国(あしはらなかつくに)と呼ばれていた日本を治めるため、瓊瓊杵尊がこの高千穂峰の頂きに降りてきたのですね。
これを天孫降臨といいますが、その証拠として高千穂峰の頂上には天逆鉾(あまのさかほこ)が突き立てられているのですのですよ。
この鉾は大国主命から瓊瓊杵尊が譲り受け、この国の支配の印にここに突き立てたという神話も残っています。
ふつうは刃を上にして立てる鉾がここでは刃が地面に突き刺さっているから逆鉾というわけです。

霧島の山々にはミヤマキリシマが美しく咲いています

霧島の山々にはミヤマキリシマが美しく咲いています

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高千穂峰のすぐ下には御鉢という火山の火口がありますが、高千穂河原に戻って向きを変えると、中岳、新燃岳(しんもえだけ)、霧島山、獅子戸岳、そして霧島連峰の最高峰である韓国岳(からくにだけ)へと登山道が続いています。
この登山道を歩くのには、ミヤマキリシマというツツジが美しく咲き乱れる季節が最高ですね。
もちろん桜や新緑や紅葉の季節もそれに負けていませんが。
いろいろな鳥の声も聞こえてきますが、なかでもブッポウソウはその鳴き声から名づけられた野鳥。
その鳴き声を漢字にすると「仏法僧」。

霧島連峰の本格的な登山もできますが、高千穂河原から高千穂峰の往復くらいなら3時間もかかりませんのでハイキング気分でもOK。
とはいえ、峰伝いの山道は突然の強風が吹くこともあり、その風に吹き飛ばされたりしたら崖を転落して大事故の危険もあります。
神々の故郷とも言える霧島の山々を歩くということは、気持ちも引き締めている必要があるわけですね。
大自然を満喫したら麓にある霧島神宮温泉郷や霧島温泉郷が温かく迎えてくれるでしょう。

霧島温泉郷の中心にある丸尾温泉から丸尾滝への散歩道

霧島温泉郷の中心にある丸尾温泉から丸尾滝への散歩道

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霧島連峰から県道まで降りてくるといくつもの温泉と旅館やホテルのある霧島温泉郷。
まず林田温泉があり、次に硫黄谷温泉。
名前からしてこの温泉の強烈な香りが漂ってきますねもう少し下ると霧島温泉でもっとも古い岩風呂目の湯があり、自然の中で温泉を満喫できますね。
県道と国道が合流するあたりにある丸尾温泉が霧島温泉郷の中心。
温泉市場を中心に大規模なホテルが建ち並んでいますが、湯治用の小さな施設もあり、鹿児島大学のリハビリテーションセンターもありますから温泉浴の効果も保証付き。

この丸尾温泉の温泉市場から徒歩5分くらいのところに丸尾滝があります。
上流にある林田温泉と硫黄谷温泉の温泉水が川に流れ込んでいるので、高さ23メートルの丸尾滝は温泉でできた滝ということになりますね。
硫黄を含んだ温泉水が流れ落ちているために、滝壺はエメラルドグリーン。
なんとも神秘的な滝ですね。
夜はライトアップもされているということですから、湯上がりにここまで散歩に来るのも神話の里ならではの光景かもしれませんね。

霧島神話の里公園と霧島高原まほろばの里でリラックス

霧島神話の里公園と霧島高原まほろばの里でリラックス

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丸尾温泉は国道がちょうどV字型にカーブするところで、ここから南東方向には霧島神宮、南西方向には霧島温泉駅と鹿児島空港があります。
空港が近くにあるので霧島温泉は意外に便利ですね。
霧島神宮の方向に行くと途中に霧島神話の里公園、霧島温泉駅の方に行くと途中に霧島高原まほろばの里があるのですね。
深い森に囲まれた神話を連想させるネーミングですが、どちらも開放的な遊戯施設。
ただし広々とした眺めがありますから、お子さんはもちろん大人でも立ち寄ってみる価値はありますよ。

霧島神話の里公園には遊戯施設のほかにリフトもありますが、リフトに乗らなくても公園の中心にある休憩所「風の見える丘神話館」からの眺めも抜群。
その前の広場では神話をテーマにしたイベントもあります。
まほろばの里は霧島高原以外にもあちこちに存在していますが、この「まほろぱ」というのは素晴らしい場所という意味。
まほろばの里も神話の森公園と同じように道の駅として土産物が充実。
もちろん遊戯施設もありますが、陶器の天降川焼やガラスの薩摩切り子を体験することもできるのですよ。

和気清麻呂は大隅国に流罪になったのでした

和気清麻呂は大隅国に流罪になったのでした

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日本史で必ずその名前が登場する和気清麻呂は備前国、現在の岡山県和気町の生まれ。
ですから和気清麻呂を祀る和気神社が岡山県にあるのは当たり前なのですが、霧島にも和気神社があるのですよ。
769年、女性天皇である称徳天皇の時代に次の天皇は自分であるという神託を受けたとして、弓削道鏡が天皇になろうとしたのでしたね。
このとき、この神託を下したことになっている宇佐八幡宮に真相を確かめに行かされたのが当時まだ下級の貴族だった和気清麻呂。

宇佐八幡宮は大分県にありますが、そこで和気清麻呂は道鏡が大嘘つきであるとの神託を受けたのでした。
そのとき権力の頂点にいた道鏡はこれに激怒して和気清麻呂を大隅国に流罪。
その後どうなったかは御存知のことかと思いますが、まほろばの里から国道をずっと下ったところにある和気神社。
1853年に薩摩藩主島津斉彬がこの地こそ和気清麻呂の遺跡だと断定し、1939年になってようやくそこに神社の建設が請願され、1942年に建設が始まったのですが、戦争が長引いてしまい完成したのはなんと戦後間もない1946年。
これらの年号から日本の「歴史」が読み取れますね。

日当山温泉郷まで降りてくると錦江湾がすぐ近くです

日当山温泉郷まで降りてくると錦江湾がすぐ近くです

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さきほど問題に出した日本の「歴史」ですが、明治維新の少し前にそのリーダー役だった島津公が、皇統を守ったために大隅国に流された和気清麻呂の遺跡を探し、太平洋戦争の直前に和気清麻呂を祀る神社が勧請され、太平洋戦争が始まってまだ勝利を確信していたころに神社の建設が始まったということですね。
歴史は新しいけれども、神話の里にある和気清麻呂神社はどこか神さびた雰囲気を漂わせています。

この神社のすぐ近くには安楽温泉があり、もう少し天降川を下った所にある妙見温泉と合わせて妙見・安楽温泉郷。
さらに川を下ると日当山温泉郷に到ります。
ここまで来るともう霧島連峰ではなく錦江湾に広がる隼人平野。
県内でこの日当山温泉がもっとも古い温泉として知られていますが、瓊瓊杵尊よりずっと以前、日本列島をつくったと伝えられる伊弉諾(イザナギ)・伊弉冉(イザナミ)の神話にたどり着くとか。
泉質もナトリウム炭酸塩泉ですので、もう硫黄の匂いはしません。

錦江湾に浮かぶ桜島はいつも噴煙を上げています

錦江湾に浮かぶ桜島はいつも噴煙を上げています

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隼人平野の「隼人」は、東北地方の「蝦夷」(えみし)や熊本県の「熊襲」(くまそ)とともに大和朝廷の時代には異民族として恐れられた存在。
鹿児島県は薩摩国と大隅国でできていますが、「薩摩隼人」と言えば勇敢な人々で、大和朝廷でもその勇敢さを発揮した人たちのこと。
隼人平野にはそれを記念する隼人塚が立っていますね。
それからこの地方の民謡に「花は霧島、煙草は国分、燃えて上がるは桜島」という一節があります。

霧島の名前をもらっているミヤマキリシマは霧島連峰の山肌を飾る花。
霧島市中心部の国分は煙草の栽培でも有名で、隼人平野の対岸にある桜島はいつも頂上から噴煙を上げているのですよ。
たまに大爆発することもあるのですね。
桜島はもともと錦江湾に浮かぶ島だったのですが、噴火した溶岩によって現在は大隅半島と陸続き。
鹿児島市からはフェリーで桜島に渡ることができますが、桜島の歴史と観光はまた別の機会にしましょう。

えびの高原の名前の由来は「えび色」です

えびの高原の名前の由来は「えび色」です

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霧島の温泉と自然の宝庫の山々、それに今も生きる神話の世界を一巡りしてみましたが、霧島連峰は鹿児島県と宮崎県との県境にあるので、宮崎県側から少し見てみることにしましょう。
登山はもちろん宮崎県側からもできますし、宮崎県には高千穂峰とは別の場所に高千穂峡があり、そこには天岩戸の伝説が残されているのですよ。
霧島神宮は鹿児島県にあるので霧島高原という名前は鹿児島県の専売特許。
同じ霧島連峰の北側の裾野はえびの高原と呼ばれています。
霧島の温泉と山々を一周して錦江湾に出ましたが、ここで一気に高千穂峰を飛び越えて宮崎県に行ってみましょう。

霧島連峰の最高峰である韓国岳の北側に広がるえびの高原では、火山によってできた池がいくつもあるのですよ。
鹿児島県側は険しい山のために丸尾滝のほかにも有名な滝がいくつかあるのですが、えびの高原にはコバルトブルーの六観音御池、底まで見える白紫池(びゃくしいけ)、えびの高原の火山湖のなかで一番小さいけれども酸性度が高くて神秘的なコバルトブルーの不動池など。
えびの高原にもミヤマキリシマは咲いていますが、天然記念物のノカイドウは是非見ておきたいですね。
韓国岳の裾野に広がるすすきヶ原のススキの穂が秋になるとえび色に染まるので、えびの高原の名前がついたとか。

「霧島温泉」は火山の中にある神話の里です

日本最初の国立公園である霧島錦江湾国立公園として出発した霧島温泉ですが、現在は屋久島も含めて霧島屋久国立公園。
屋久島は縄文杉で有名ですが、やはり「古代」と結びついていますね。
霧島高原の雄大な自然に触れながら、火山の地下からわき出る温泉につかると、あちこちから神々の声が聞こえてきそうですね。
ブッポウソウという野鳥もその独特の鳴き声で神々の言葉を告げているのかもしれません。
霧島温泉で身も心もきれいに洗ってみてください。
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