砂蒸し風呂で有名な「指宿温泉」と周辺の歴史的観光スポット

鹿児島県は桜島のある錦江湾をはさんで西に薩摩半島と東に大隅半島が、大きなカニのはさみのようになっています。その薩摩半島の最南端にあるのが指宿(いぶすき)温泉。JR指宿駅へは鹿児島中央駅から指宿枕崎線で1時間弱。鹿児島空港からはバスで1時間40分。指宿市内にある温泉を指宿温泉として総称していますが、砂むし風呂や露天風呂、それに共同浴場や足湯もたくさんありますね。浜辺の砂むし風呂と露天風呂は「絶景」という形容詞が付けたくなりますね。

指宿市内の温泉を巡ってみることにしましょう

指宿市内の温泉を巡ってみることにしましょう

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温泉旅行の醍醐味は、ホテルや旅館の中にある温泉のほか、街を歩いて露天風呂や共同浴場で地元の人たちの会話を聞きながら温泉浴が楽しめることです。
とくに鹿児島県は、江戸時代に「薩摩飛脚」という言葉を生んだ独特の薩摩弁。
幕府は各地に隠密を派遣していたのですが、薩摩に送られた隠密たちはその薩摩弁がしゃべれないためすぐに隠密だとバレてしまい、江戸を出てから二度と江戸には戻ってこられない「薩摩飛脚」となったのですね。

指宿温泉の名物はなんといっても砂むし風呂!

指宿温泉の名物はなんといっても砂むし風呂!

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指宿温泉といえば砂むし風呂があまりにも有名で、ほかの温泉にはあまり見られないものです。
指宿には源泉がなんと500カ所もあり、1日あたりなんと12万トンもの温泉が湧いているとのこと。
指宿市内にはいくつも温泉街があり、それらを総称して指宿温泉と呼んでいますが、砂むし風呂のあるのは指宿駅南東の錦江湾の海岸にある摺が浜温泉。

1kmほどの砂浜は地下の温泉で温められていて、温泉のお湯につかる温泉浴ではなく砂の中に体を埋めるのですね。
江戸時代からこの砂むし風呂は知られていたようで、薩摩藩主の島津義久の殿様風呂もあったとか。
海水浴と砂むし風呂を同時に楽しめますが、海岸に立ち並んだ旅館のほか、公営の砂むし会館「砂楽」では雨の日も砂むし風呂に入れます。
砂の中にサツマイモや卵を埋めておけばふかし芋とゆで卵も食べられるという次第。

殿様気分を味わうには二月田(にがつでん)温泉が良いでしょう

砂むし風呂のある摺が浜温泉以外にも指宿駅の周辺にはいろいろ温泉があります。
一見すると民家のような弥次ヶ湯の共同浴場。
十返舎一九の『東海道中膝栗毛』に弥次さんと喜多さんのコンビが出てきますが、その弥次さんと同じ名前の人が水田の中に見つけたというのがこの弥次ヶ湯温泉。
江戸時代から庶民に親しまれていたということですね。
また、砂むし会館から若宮神社への道は「子宝ロード」と呼ばれていますが、その途中にいぶすき元湯温泉があります。
温泉は不妊症の治療にも効果があるということでしょうか。

庶民の温泉を離れて、JR線で少し鹿児島方面に戻り二月田駅まで行くと二月田温泉があり、ここには殿様湯という共同浴場があるのですよ。
現在は共同浴場ですが、1831年にその時の島津公がここに専用の湯船を作らせたとのこと。
今でも浴場の裏には当時の敷石や湯船、それにタイルまでが残っていますね。
タイルを使ったとはさすがに幕末をリードした島津公。
湯船には「丸に十文字」の島津家の家紋が入っていますよ。
またここの温泉水は飲むこともできるので、そのための施設もありますね。

絶景露天風呂からは薩摩富士と呼ばれる開聞岳が見えます

絶景露天風呂からは薩摩富士と呼ばれる開聞岳が見えます

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砂むし風呂は海に面していますが、その海は錦江湾です。
やはり雄大な海原の風景ということになると、JR線で指宿駅を越えて山川駅まで行き、そこからバスかタクシーで南の海岸にまで行くべきですね。
薩摩半島の最南端からは南シナ海が見えるとともに、薩摩半島の南西の頂点にある開聞岳も見えます。
富士山をかなり小さくしたような開聞岳と東シナ海とのコラボが楽しめる露天風呂として、絶景露天風呂と呼ばれるヘルシーランド露天風呂「たまて箱温泉」が最高。

また、ここにも指宿温泉名物の砂むし風呂があり、摺が浜温泉に対して山川砂むし温泉と呼ばれているのですよ。
ところで、薩摩富士と呼ばれる開聞岳を眺めることのできる露天風呂が「たまて箱温泉」と名づけられているのには理由があります。
それは、龍宮城に招待されて楽しい思いをしたあと帰ってきた浦島太郎が、乙姫に手渡されたたまて箱を開けたのがどうやらこの砂浜。
もちろんこの浦島伝説は日本の各地にありますけれど。

鰻湖も面白いし錦江湾の知林ヶ島(ちりんがしま)も面白い

鰻湖も面白いし錦江湾の知林ヶ島(ちりんがしま)も面白い

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山川駅から海とは反対の方向に行くと鰻湖があり、その湖畔に鰻温泉があります。
交通の便は悪いのですが、その分だけいわゆる田舎の雰囲気を楽しむことができますよ。
鰻池は直径1.3キロメートルの火口湖で、昔はここで大きなウナギが捕れたことからその名が付けられたということですね。
鰻湖そのものは火山の噴火口だったわけですが、周辺は火山の溶岩でできているのであちこちすき間だらけ。
その溶岩のすき間は先祖の霊などがあの世とこの世とを行き交うことのできる場所ということで、鰻地蔵堂はその供養のためのもの。
ひなびた鰻温泉には混浴露天風呂もありますよ。

鰻湖とは方角が違うのですが、池田湖に行く前にもう一度錦江湾の砂浜に戻ってみましょう。
そこには知林ヶ島という無人島があります。
砂浜というものは、波によって砂が運び去られる一方で、波が浜に砂を運んでくることでできています。
知林ヶ島と指宿の海岸との間の海の底には、ふだんは見ることのできない大量の砂が埋もれていて、3月から10月にかけての干潮のときに800メートルの長さの砂の道が出現することがあるのですね。
しかしまあ、それを見ることができるのはよほどラッキーなことかもしれませんね。

池田湖にはイッシーという巨大生物がいるとのことです

池田湖にはイッシーという巨大生物がいるとのことです

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鰻湖の近くには鰻湖の何倍も大きな池田湖があります。
周囲15キロメートルのカルデラ湖で、カルデラ湖としては九州最大。
カルデラというのは火山の頂上が爆発によって吹き飛んだあとに陥没してできた窪みのこと。
阿蘇山のカルデラは池田湖とは比較にならないほど巨大ですが、湖にはなっていませんね。
火山の噴火でできた湖ですから湖の色は美しい藍色。
さらに池田湖からは、南にある開聞岳を眺めることができるのですよ。

鰻湖よりずっと大きい池田湖には、体長がなんと2メートルで太さが50センチメートルもある巨大なウナギが生息しています。
池田湖こそ巨大鰻湖とでも呼べそうですが、実は池田湖にはイッシーと呼ばれる正体不明の巨大生物がいると言われているのですね。
イギリスのネス湖にはネッシーと呼ばれる恐竜の生き残りのような生物が何枚もの写真に撮影されていますが、池田湖の巨大生物はイッシー。
日本各地の伝説に鰻が長老に化けて現れるというものがありますが、2メートルよりさらに大きなウナギがいても不思議ではありませんが。

周囲をほとんど海に囲まれた開聞岳も指宿市内にあります

周囲をほとんど海に囲まれた開聞岳も指宿市内にあります

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池田湖の南に富士山と同じ成層火山である開聞岳があります。
薩摩半島の最南端にあり、周囲の大部分が海に囲まれた標高924メートルの山。
成層火山というのは何度も火山が噴火してその溶岩や火山灰などが積み重なってできた火山。
円錐形をしているのでどこから眺めてもほとんど同じ姿をしているのが特徴。
池田湖から開聞岳に向かう途中に玉乃井という古い井戸があり、日本最古の井戸と言われています。
高千穂峰に天孫降臨した瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)の子である彦火火出見尊(ヒコホホデミノミコト)の妻の豊玉姫が毎日ここで水をくんだとか。

もう少し行くと枚聞(ひらきき)神社がありますが、なんとこれが薩摩国一の宮。
開聞岳のちょうど真下にあり、ご神体は開聞岳ということですね。
また山麓には「かいもん山麓ふれ合い公園」がありキャンプなども楽しめますよ。
3,776メートルの富士山に比べたらずっと低い薩摩富士ではありますが、頂上まで登って降りてくるにはそれなりの装備をするとともに、6時間くらいは所要時間を考えておく必要がありますね。
鏡池にはちょうど河口湖に映る「逆さ富士」のような逆さまの開聞岳が美しいですね。

長崎鼻という岬には龍宮神社があります

長崎鼻という岬には龍宮神社があります

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開聞岳から東に行くと長崎鼻の付け根のあたりに出ます。
そこには開聞温泉という、地元でしか知られていないような小さな共同浴場があります。
鉄分を多く含んだ温泉ですから色はまったくきれいではありませんが、その分はるばる遠くに来たものだという感慨がわいてくることでしょう。
長崎鼻を南に行くと龍宮神社がありますが、これで絶景露天風呂の「たまて箱」とのつながりがはっきりしましたね。

玉乃井の水をくんでいた豊玉姫が実は乙姫のモデルだったということで、ここで乙姫と浦島太郎が出会ったということになっています。
ですから龍宮神社は縁結びの神社。
長崎鼻はその「鼻」の名前の通り、海に突き出た狭い岬で、周囲はほとんどが海。
西の方には砂浜が続きその先にあるのは開聞岳。
ここから屋久島も見えますが、天気が良ければ、領土問題で何かと騒がしい竹島や太平洋戦争の激戦地であった硫黄島までが見えるとのこと。
となりにある赤水鼻にはソテツが自生していて天然記念物に指定されているのですよ。

枕崎はカツオの漁港として有名です

枕崎はカツオの漁港として有名です

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指宿枕崎線を終点まで行くと枕崎駅に到着します。
以前は枕崎駅から鹿児島本線の伊集院駅まで私鉄の鹿児島交通枕崎線が通っていたのですが、台風のために大きな被害を受け、その後復興されることなく廃線になりました。
薩摩半島はまさに台風の通り道で、毎年のように大きな被害を出していますね。
JRの枕崎駅はその後も営業を続けていて日本最南端の始発・終着駅。
鉄道ファンにはたまらない場所ですね。
市街地から海に出るのに10分くらいですが、海岸には火之神公園があり、これと沖合のローソクのような形の立神岩との絶妙のマッチングが楽しめますよ。

枕崎というとやはり漁港の町。
とくにカツオ漁の基地として有名ですね。
観光スポットにもなっている「枕崎市かつお公社」はまさにその代名詞。
カツオと言えばタタキですが、それ以外にもカツオをどのように処理していくのか、その製造工程が見学できるのですよ。
もちろん見学だけではなく食べることもできますし、カツオ製品や水産物をお土産に買って帰ることもできます。
また薩摩と言えば焼酎ですが、明治蔵ではその製造を見学できるのですよ。
もちろん飲むのもOK。
指宿ほどたくさんの温泉に恵まれているわけではありませんが、ここにも「枕崎なぎさ温泉」があり、露天風呂も楽しめますね。

武家屋敷の残っている知覧はまた悲しい歴史を残しています

武家屋敷の残っている知覧はまた悲しい歴史を残しています

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知覧(ちらん)は現在は知覧茶というお茶の銘柄としてその名を残していますが、今はもう知覧町は他の町村と合併して南九州市の一部。
薩摩半島の中央部にあり、1941年にはここに飛行場も完成。
ここから多くの若者が特攻機に乗って帰ることのない「旅」に出たのでした。
この悲しい歴史を残した知覧は、もともとは江戸時代の武家屋敷やその庭園が残る静かな町。
指宿の風光明媚な温泉街から少し足を伸ばしてみることにしましょう。

知覧武家屋敷庭園はゆっくり散策する価値があります

知覧武家屋敷庭園はゆっくり散策する価値があります

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池田湖から北西に広がる丘陵地帯は知覧茶の産地。
あちこちに茶園と茶の販売店があり、のどかな雰囲気をかもし出しています。
知覧はもともとは島津家の分家がここを外敵から守るための砦にしたとのこと。
関ヶ原の戦いのときに西軍についてしまった島津義弘は、西軍が負けて退却するとき東軍に向かって進軍したことで有名ですね。
西軍の大名たちは処刑されるか島流しになるか所領を没収されるかしたのに、島津家は徳川家康が薩摩に攻めてきたら断固として戦うと宣言。
負け戦を負けたままで終わらせない薩摩武士の心意気でしょうね。

それほど勇猛果敢な薩摩の武士たち。
知覧に武家屋敷とその庭園ができたのは江戸中期とのことですが、この伝統が見事に屋敷と庭園という形で結晶したわけです。
石垣と生け垣かによって区切られた一つ一つの武家屋敷は、いざ戦いとなると「城」の役割を果たせるように作られていたのですよ。
庭園は7つあり、その美しさと歴史との調和については語るより実際に見た方が良いですね。

特攻隊の基地は知覧特攻平和会館になっています

特攻隊の基地は知覧特攻平和会館になっています

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知覧と言えばまた太平洋戦争末期の神風特攻隊の基地。
1941年に飛行場が完成したときにはパイロット養成のための施設だったので、その時点では誰も特攻隊のことなど考えていなかったでしょうね。
桜島が浮かぶ錦江湾はちょうどハワイの真珠湾と似ていて、1941年12月8日にこれを航空隊で攻撃しようと考えていた旧日本軍は、錦江湾でそのための実戦訓練をしていたのですね。

戦況が変わり、米軍が太平洋上の島々を旧日本軍から取り戻しついに沖縄にまで迫ってきたとき、「一機一艦」を目標に片道の燃料しか搭載せず、かわりに爆弾を搭載した戦闘機で敵艦に体当たりした特攻隊。
そのパイロットはようやく飛行技術を習得したばかりの若者たちだったのですよ。
知覧の飛行場はその特攻隊の基地だったのですが、現在はその跡地に知覧特攻平和会館が建っています。
また富屋旅館の女将だった鳥浜トメは多くの特攻隊員を世話し「特攻の母」と呼ばれているのですが、その旅館も残っていてここに「トメさん観音」が置かれることになったとか。
悲しい歴史はもう二度とあってほしくないですね。

指宿市内にはたくさんの温泉と絶景があります

指宿市内の温泉の散策、いかがだったでしょうか。
指宿温泉といっても源泉はたくさんあり一つ一つが別の温泉ですからゆっくり回っていたらいくら時間があっても足りませんね。
開聞岳と長崎鼻が見える露天風呂も良いですが、錦江湾の砂に体に埋める砂風呂は格別。
カツオ漁で有名な枕崎もすぐ近くですから、グルメにとっても格好の場所。
そんな風光明媚な地域に特攻隊の基地があったのですから、歴史というのは皮肉なものですね。
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