実は史跡や文化財の宝庫!日本を代表するホテル「椿山荘」の歴史とは

「○○さん、椿山荘で結婚式やるんですって」同僚や友人からそんな話を聞くと反射的に「ええっ!すごい!うらやましい!」と思ったものです。多くの花嫁さんが憧れる椿山荘。東京でも指折りの式場であり、高級ホテルでもあります。でも椿山荘のすごいところはそれだけじゃない、実は敷地内の庭園には様々な史跡や文化財があって、ホテルや宴会場の利用客でなくても見て廻ることができるんです。いったいどんなところなのか?椿山荘の歴史と魅力、たっぷりご紹介してまいります。

椿山荘の歴史を辿る

椿が自生する”つばきやま”だった?

椿が自生する”つばきやま”だった?

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椿山荘(ちんざんそう)は東京都文京区の中でもやや高台の地形を持つ”関口台地”と呼ばれる台地に建っています。
東京というと平坦な土地というイメージがありますが、歩いてみると意外と坂道が多いんです。
椿山荘の周囲も、すぐそばを神田川がやや蛇行して流れる起伏があり変化に富んだ地形。
まだ江戸幕府が開かれるずっと前から、一帯は自然豊かな田園地帯で、現在椿山荘が建っているあたりには、椿が自生する”つばきやま”があったとか。
かなりたくさんの椿が群生していたようで、椿の花を楽しむことができる景勝地として知られていたようです。

時代が進み、江戸時代に入ると、田園地帯は切り開かれ、新しい江戸の町づくりが始まります。
江戸後期に描かれた「江戸切絵図」を見ると、現在の椿山荘があるあたりには、久留里藩(現在の千葉県君津市)黒田氏の御屋敷がありました。
少し離れたところには、細川や松平といった大名家の名前も。
周辺の土地は細かく分けられ、多くの武家屋敷が軒を連ねます。
切絵図を見た限りでは、自生していた椿がどうなったかは不明ですが、少なくとも気軽に椿見物に足を運べるような場所ではなくなったようです。

明治維新の大人物の邸宅に

明治維新の大人物の邸宅に

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椿そのものは伐採されて武家屋敷になってしまったかもしれませんが、ただ、かつて椿山であった、椿が美しかったという記憶だけは残っていたようです。

明治時代に入ると、当然、藩は無くなりましたので、江戸の藩邸も必要なくなります。
久留里藩のお屋敷も売りに出されていましたが、1877年(明治10年)、ある歴史的大人物が私財を投じてこの地を購入。
自分の屋敷とします。
その人物とは、軍人であり政治家でもあった、もと長州藩士・山縣有朋(やまがたありとも)です。
山縣は伊藤博文らと並び明治維新期に活躍した人物。
政治家として辣腕をふるった山縣ですが、一方で和歌を好み、茶を嗜み、作庭にも造詣が深い文化人でもあったのです。
以前から仕事で、関口台地のあたりを訪れるたびに、この地の起伏に富んだ豊かな地形に魅せられていたと言います。

山縣は買い上げた敷地の中に自身の屋敷を建て「椿山荘」と命名。
このとき、屋敷跡に椿があったかどうか定かではありませんが、その昔、このあたりに”椿山”があったことは、山縣の耳にも入っていたのでしょう。
”椿山”の名前は途絶えることなく、明治の偉人によって現代へと受け継がれていったのです。

椿山荘は、型に捉われない独特の美しさを備えた日本庭園として、京都の無鄰菴、小田原の古稀庵と共に「山縣三名園」と呼ばれています。
山縣はこの場所で、趣味の造園に精を出したそうです。

椿咲く美しい庭園・再び

椿咲く美しい庭園・再び

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1918年(大正7年)、関西財界のリーダー的存在だった藤田組の藤田平太郎男爵が、山縣有朋の意思を受け継ぎ、椿山荘を譲り受けて東京での別邸にします。
第二次世界大戦で建物や樹木などが焼失してしまいますが、戦後は藤田興業(旧藤田組)の所有地に。
創業者の小川栄一の「戦後の荒廃した東京に緑のオアシスを」との声により、およそ1万本もの木を植えるなどして名園の再興に着手します。
1952年(昭和27年)にはガーデンレストラン「椿山荘」がオープンし、美しい庭園の中で結婚式やパーティーなどが華やかに行われるようになりました。

1955年(昭和30年)、藤田興業の観光部門が独立して藤田観光が設立され、椿山荘も藤田観光の管轄に。
さらに1992年(平成4年)、カナダの世界的なホテルチェーン、フォーシーズンズホテルズ・アンド・リゾーツとの提携によって「フォーシーズンズホテル椿山荘東京」がオープン。
この提携は2012年(平成24年)で終了し、現在では藤田観光独自の運営による「ホテル椿山荘東京」となっています。

椿山荘の庭園は、ホテルや式場の利用者でなくても見学が可能。
およそ2万坪という、東京都内とは思えない広大な敷地の中には、およそ100種類1000株もの椿の木が植えられていて、晩秋から春先まで、種類ごとに順々に艶やかな花を咲かせ、訪れる人たちを楽しませています。

椿山荘で見られる史跡・文化財

国登録有形文化財「椿山荘三重塔」

国登録有形文化財「椿山荘三重塔」

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旧寛永寺の五重塔、池上本門寺の五重塔と共に「東京の三古塔」と称されているのが、椿山荘の敷地内にある三重塔。
ホテルやタワーなどの建物から少し離れた、庭園の中ほどに建っています。

間近で見ると、渋色に染まり年月を感じさせる木が複雑に組み合わさった造りになっていて、中には観音菩薩像が。
如何にも古相ではありますが、それにしても、なぜ、東京の結婚式場の敷地の中に、古くから続く東京の名刹と肩を並べる塔があるのでしょう?

この三重塔はもともと、広島県賀茂郡の篁山竹林寺というところに建てられていたもの。
大正時代、強風で破損した状態にあったところを、藤田平太郎男爵の目に留まり、椿山荘の敷地内に移築されることになったのだそうです。
いつ頃造られた塔かは、はっきりとはわかっていないそうですが、竹林寺は平安時代の歌人・小野篁(おののたかむら)ゆかりの寺とのことで、平清盛が1回目の修復を行ったとの言い伝えも残っているのだとか。
移築時には、建築工法や洋式などから、室町時代のものではないかと考えられていたそうですが、木造の建物は何度も手を加えられ修復を重ねて残されていくもの。
推測の域を出ませんが、かなり古いものであることは間違いなさそう。
「東京の三古塔」と呼ばれる理由はそうしたところにあるようです。

園内にはこんなパワースポットも!

園内にはこんなパワースポットも!

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鬱蒼と木々が生い茂る椿山荘の庭園は、歩いて回るだけでもパワーがいただけそうな感じがします。
園内には白玉稲荷神社という神社が。
こちらも、藤田平太郎男爵が京都下鴨神社と伏見稲荷明神から社殿・お稲荷さんをそれぞれ移してきて、椿山荘の守護神としたものだそうで、小さな鳥居とお社ですが、何とも温かみがあって、ご利益いただけそうな雰囲気です。

もちろん御神木と呼ばれる木も大切にされています。
こちらの御神木は、樹齢500年という椎の木。
古木ながら高さ20m、根元の周囲4.5mと堂々たる風格で、樹木の多い椿山荘の庭園の中でもひときわ異彩を放っています。
東京都内でも指折りの巨木として知られている椎の木。
「この木を見に来た」という人も少なくないようです。

他にもまだまだ、ご利益がありそうなスポットがたくさんある椿山荘。
あとひとつ挙げるとするなら、湧水が自噴するという井戸も外せません。
古香井(ここうせい)と呼ばれるその井戸は、こじんまりとしていますが、ミネラルやカルシウムを豊富に含んだ地下水が湧き出ているのだそうです。
池や滝、小さな川もあり、水の流れが豊かな椿山荘の庭園。
関東大震災の時には、井戸は被災者に開放され、飲み水となったとも伝わっています。
清らかな水が滾々と湧き出る様を見ているだけでも、力がみなぎってくるようです。

羅漢石・七福神・十三重の塔…”石”にも注目!

羅漢石・七福神・十三重の塔…”石”にも注目!

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庭園内の遊歩道の脇には、石で造られた名跡もあるので、是非注目しながら散策してみてください。

まずは、京都伏見にある石峰寺というお寺にあったという羅漢石。
江戸中期の画家で、数年前、東京都内の美術館で5時間待ちの行列ができたことも記憶に新しい伊藤若冲の下絵による五百羅漢のうち20体が、ごくごくさりげなく椿山荘の庭園内に置かれているのです。
こちらに移された経緯ははっきりとはわかっていないそうですが、かなり貴重なものだということは確か。
草や木々の間から顔をのぞかせて、首を傾げたり目を見開いたり、滋味あふれる表情を見ていると何とも心が和みます。

羅漢石の他にも、椿山荘の庭園には七福神がいて、七福神めぐりを楽しむことが可能。
探すなら、椿山荘のフロントでパンフレットをいただいてからのほうがわかりやすいです。
どの七福神も、丸っこい石に刻まれた可愛らしいお姿をしていて、横っちょに小さなお賽銭箱が置かれています。

こちらのお庭では、庭の神と呼ばれる二ワトリの形をした神様もいて”八福神”としているのだとか。
全部見つけると、広い園内をぐるっと巡ることができて程よい疲労感に包まれ、清々しい気持ちになります。

他にも、石で設えた名跡がたくさん。
目立つものとしては、遊歩道の脇に建っている大きな石の塔が、歩いていてもすぐ目に留まります。
高4m76㎝もある、花崗岩でできた十三重の塔。
織田信長の弟と言われている戦国時代の武将で茶人の織田有楽(おだうらく)縁のものと言われているそうです。
単に石を積み上げただけかなと思いきや、下の方に細かい彫刻が施されていて、年代としてはかなり古いものなのだとか。
縁あってこちらのお庭で余生を過ごすことになった十三重の塔。
周囲の木々と競うように猛々しく佇んでいます。

あわせて行きたい!椿山荘周辺の歴史的スポット

細川家のお宝がざくざくと「永青文庫」

細川家のお宝がざくざくと「永青文庫」

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永青文庫(えいせいぶんこ)とは、椿山荘から徒歩2分ほど、すぐお隣にある、日本・東洋の古美術を中心とした小さな美術館。
旧熊本藩主細川家に代々伝わるの美術品や古文書などを見ることが出来ます。
1950年に財団法人として設立され、もともと熊本54万石細川家のお屋敷があった場所に建てられたシンプルな白い洋館の中には、外観のこじんまりした感じからは想像つかないほどのお宝がわんさかと展示されています。
理事長は18代当主で元総理大臣の細川護煕氏です。

中でも、美術収集家としても有名な第16代当主細川護立によるコレクションは圧巻。
菱田春草や横山大観といった巨匠と直接交流があったということですから、貴重な品々が並んでいるのも納得です。
もっと仰々しく展示してもよさそうなものですが、どの美術品もさりげなく展示されているところも、こちらの美術館の特徴と言えるかもしれません。

展示物は季節ごとに入れ替えられるそうで、企画展示も定期的に開催されているため、訪れるたびに違ったお宝を見ることができます。
歴史が好きな方、美術鑑賞が好きな方なら絶対納得の必見スポットです。

心和む日本庭園「肥後細川庭園」

心和む日本庭園「肥後細川庭園」

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細川家下屋敷の庭園の跡地をそのまま公園にした、風光明媚な池泉回遊式庭園。
以前は「新江戸川公園」という名前でしたが、2017年に「肥後細川庭園」という名前に変わったのだそうです。

この一帯、江戸時代にはいくつかの武家屋敷となっていたところですが、江戸末期には細川家の下屋敷となり、1960年に東京都が購入し公園として整備。
1975年に文京区の区立公園となって今日に至ります。
細川家のお屋敷の敷地はかなりの面積に至っていたそうです。

椿山荘とはまた違った雰囲気の、落ち着いた趣きある純和風の日本庭園。
園内は水が豊富で、どこかから引いてきているのかと思いきや、こちらにも湧き水があるのだとか。
目白台台地と呼ばれる高台と神田川が作り出す起伏に富んだ地形を取り入れて、山あり、林あり、池ありと、変化に富んだ景観を楽しむことができます。
野草もたくさん自生していて樹木も多く、特に紅葉の季節は目見麗しい光景が広がり、多くの見物客で賑わうと言います。
歩き疲れたらベンチで一休み。
東京にいることを忘れてしまいそうなほど、ゆったりとした時間を過ごすことができるスポットです。

椿山荘ともゆかりのある「関口芭蕉庵」

椿山荘の近くには、あの松尾芭蕉にゆかりのある建物が残されています。
俳人として名高い人物ですが、1677年(延宝5年)頃、なんと神田川の分水工事に携わったことがあるのだそうです。
ただし、力仕事ではなく、帳簿つけのような事務仕事をしていたらしく、生活のためのバイトだったのではとか、江戸の町中で「俳句作ってます」だけでは何かと怪しまれるのでとりあえず職に就いていたのではとか、諸説考えられるようですが、詳細は不明とのこと。
松尾芭蕉、何とも謎多きお人です。

そんなミステリアスな松尾芭蕉が1677年(延宝5年)から約3年間、神田川の工事の際に住んでいた住居跡が椿山荘の近くに残っていて、日中だけですが自由に見学することが可能。
当時は「竜隠庵」と呼ばれていた水小屋のようなものだったそうですが、後に芭蕉の像などが敷地内に立てられ、「関口芭蕉庵」と呼ばれるようになっていったのだそうです。

江戸切絵図を見ると、江戸後期には黒田家の下屋敷の敷地になっていたようですが、もしかしたら久留里藩のお殿様、芭蕉ゆかりの建物をそのまま残してくださったのかもしれません。
ただ、建物は火災や戦火で何度も焼失してしまっているため、現在のものは芭蕉が住んでいた当時のものではなく、戦後復元されたもの。
それでも、多くの人に大切にされていることが感じられる佇まいで、訪れた人をやさしく迎えてくれます。
敷地はそれほど広くはありませんが、庭も味わい深く温かい雰囲気。
一回りすると一句浮かんでくるかも?しれません。

見どころたくさん!豊かな気持ちになれる椿山荘の庭園散策

有名なホテルであり結婚式場でもあるので、お庭が美しいことは常々知ってはいましたが、こんなに見どころがたくさんあったとは!園内を散策していると、今まさに結婚式を挙げたばかりの幸せカップルの姿を見ることもあって、遠巻きにこっそり、幸せのおすそ分けにあやかれることもあります。
パーティーや宿泊だけじゃなく、ふらりと庭園散策に訪れるのもオススメの椿山荘。
是非お出かけになってみてください。
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