紙の博物館と近代製紙工場発祥の地で日常生活を想う

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トラベルパートナー: HARUKI

私は広島県出身ですが、会社の転勤を繰り返し、いろんな地域で暮らしてきました。 赴任先を起点に各地の観光スポットを巡って絶景や思い出になる写真を撮っています。 最近は一人旅が多いですね。 紹介記事は西日本中心になります。 みなさんに一味違った旅の魅力をご紹介出来たら幸いです。

紙の歴史をたどり現在を知り未来を考えよう

東京都の北東に位置する北区は人口約35万人、すぐ北は荒川を経て埼玉県に至ります。都内外へ通勤通学する人々で賑わう街中に、豊かな緑を広げる飛鳥山公園。ここに建つ紙の博物館は、生活必需品の物語に気付かせてくれるでしょう。

紙の博物館は緑に覆われた飛鳥山公園の高台に

あすかパークレールのアスカルゴは大人気

JR京浜東北線の王子駅中央口改札を抜ければ、すぐに飛鳥山公園の入口。ここから山頂部まではアスカルゴという小型モノレールに乗ります。2009年7月17日にオープンし、高低差約18m・レール延長48mを2分で結ぶ乗り物。ゆっくり動く様子がエスカルゴ(カタツムリ)を連想させる事から、飛鳥山の地名と合わせて名付けられました。

無料で乗車できるとあってたちまち大人気に。しかもエアコン完備で、車椅子やベビーカーにも対応しています。車内では北区出身で同区アンバサダーを務める女優・倍賞千恵子さんのアナウンスが、味わい深いです。

全国でも数少ない紙専門の博物館

紙の博物館は1950年に製紙記念館としてスタート、1965年に現在の名称となりました。飛鳥山公園に移転したのは1995年で、約40,000点の資料に15,000点以上の図書を展示公開。日本の伝統的な和紙と経済発展を支えた洋紙について、その歴史と文化・産業を学べる紙専門の総合博物館です。

ここ東京都北区王子は日本の資本主義を発展させた実業家・渋沢栄一ゆかりの地。彼の提唱により1875年に日本初の大規模近代的製紙工場・抄紙会社が操業を始めました。この抄紙会社こそ現在の王子製紙株式会社なのです。

エントランスでは聖徳太子がお出迎え

それでは博物館に入ってみましょう。エントランス正面左手には、聖徳太子御影が掲げられています。宮内庁所蔵の「聖徳太子及び二王子像」をモチーフにした、日本画家の奥田元宋画伯による作品。聖徳太子は仏教を広め製紙を奨励した事から「紙祖」として敬う和紙生産地も存在します。右側に展示されているのは1965年まで使用の「ボロ蒸煮釜」、かつてはボロになった衣服を煮込み紙の原料にしていたのです。

まず最初は現代の製紙産業発展について学ぼう

原料から製品になるまでの過程を紹介

まず最初は2階の第1展示室から、ここは現代の製紙産業をテーマとしています。紙が作られるまでの原料や製造工程、さらには製品に製造機械などを展示。また製造工程が紹介されたビデオも鑑賞できるでしょう。模型展示されているのはチップ専用船の新本州丸。製紙の原料となるチップ(木片)を大量に運搬するため、船倉の容積を最大限に設置した特徴的な型です。

ポケットグラインダーはひときわ目立つ

こちらは1階展示場の中央にあるポケットグラインダーという機械。この機械でチップを摺りおろすように砕き、まず砕木パルプを製造します。日本では明治時代の1890年から製造が始まりました。ちなみにこのポケットグラインダーは王子製紙苫小牧工場で、1917年~1958年に使用されていたものです。

スウェーデンで誕生したパルプ主流機の模型

連続蒸解釜は縦に細長いロケットのような容器。その上からチップを投入し薬液と煮合わせる事で、連続的にパルプを製造できる設備です。これはスウェーデンのカミヤ社が開発した、カミヤ式連続蒸解釜の25分の1サイズ模型。1950年代以降に世界中でパルプ生産の主流機となりました。

紙の教室ではどのように紙が作られるのか学ぼう

ハンドルを回せば紙ができるしくみが

私たちの日常生活に欠かせない存在の紙。ここ3階の第2展示室は紙の教室というテーマで、紙は何から作られるのかを紹介しています。水の中で繊維を分解させ、網で漉し感想させるとできあがり。このような過程を、ハンドル回転の模型や解説パネルで見ていきましょう。

紙のしくみとリサイクルを学ぼう

こちらでは紙のしくみとリサイクルを、主に小学生向けに解説しています。パソコン検索システムでクイズ形式になっており、正解と不正解を繰り返しながら紙について学びましょう。またQ&A式のパネルコーナーもあり、裏返せば答えが掲示されます。

紙の歴史と世界に広まった製紙産業の歩みを学ぼう

人類の歩みと共に発展した紙文化

ここ4階の第3展示室は紙の歴史・製紙産業の歩みというテーマ。まだ紙がなかった大昔、人間は樹皮や洞窟の壁面さらには石や貝殻、そして動物の皮にまで文字を記しました。そのような紙以前の書写材料から、やがて紙の誕生と伝播・和紙の歴史に製造工程。さらには世界の紙の歴史が展示されています。

各種の紙を実際に手でさわって、感触を確かめてみるのもいいでしょう。また1798年にフランスのルイ・ロベールが、世界で初めて発明した抄紙機(しょうしき)を展示。模型ではありますが世界の製紙産業を大きく進歩させた機械です。

紙は誕生してどう世界に広められたのか

紙というものが世界に伝わった歴史を見ていきましょう。紀元前150年頃の中国では、すでに紙が存在していました。また610年に中国東北地方や朝鮮半島の大部分を占めていた国・高句麗の僧によって日本に伝えられたと「日本書紀」に記されているのです。現在でも機械に頼らない製紙方法は、チベットやタイなどアジア地域に残っています。

奈良時代の百万塔と最古印刷物の陀羅尼

こちらは奈良時代に称徳天皇の発願で制作された、百万塔と呼ばれる木製三重塔。実に100万基が作られ770年、法隆寺や興福寺などへ奉納しました。そして手前に展示されているのは「陀羅尼(だらに)」という、仏教において用いる呪文。これらには称徳天皇の国家鎮護という想いがあります。

実は刊行年代の明らかな、現存最古の印刷物と伝わります。この陀羅尼を納めた百万塔が、各地の仏教寺院に奉納されました。ちなみに奈良・法隆寺に保存されている百万塔と陀羅尼の一部は、国の重要文化財指定を受けています。

飛鳥山公園に建ち並ぶ3つの博物館をぜひ見学

北区飛鳥山博物館で地域文化にふれよう

ここは紙の博物館から徒歩すぐの距離にある北区飛鳥山博物館。1998年にオープンし主なテーマは、東京都北区や近隣地域の考古学と歴史学に民俗学など。また自然に関しての資料も含め、1つの象徴に14のテーマが展示されています。アートギャラリーや企画展など無料見学できるコーナーも。親しみやすく学びやすい、憩いの場と呼べる博物館でしょう。

渋沢史料館は大実業家の功績と志を伝える

いよいよ令和の新1万円札肖像画となる渋沢栄一、日本の近代経済社会を発展させた大実業家です。こちらは1982年にオープンした渋沢史料館。実業界のみならず社会公共事業さらには民間外交でも、指導的役割を果たした渋沢栄一の功績にふれてみましょう。紙の博物館から徒歩約2分、北区飛鳥山博物館と合わせ「飛鳥山3つの博物館」と呼ばれています。

晩香盧は大正時代の貴重な近代建築

こちらは晩香廬(ばんこうろ)と呼ばれる洋風茶室。渋沢栄一の喜寿(77歳)を祝い、清水建設株式会社から贈呈されました。江戸時代の1804年に創業した清水建設は、1887年に渋沢栄一を相談役に迎えます。そしてさまざまな経営指導を仰ぎ、大手建設会社として発展したのです。

大正時代の1917年に竣工し、丈夫な栗(クリ)を素材に用いて建築。館内には暖炉や薪入れに火鉢などの調度品や、机に椅子などの家具も揃っており、設計者の細やかな心遣いが感じられるでしょう。この温かみのあるお洒落な空間は、国内外の賓客を迎えるレセプションルームとしても使用されたのです。

青淵文庫はステンドグラスの美しい洋館

ここは青淵文庫(せいえんぶんこ)と呼ばれる洋館。渋沢栄一の傘寿(80歳)と、男爵から子爵への昇格を祝い贈呈されました。こちらも大正時代の1925年に竣工し、主に書庫や接客の場として使用。また渋沢家の家紋「丸に違い柏」にちなみ、柏の葉をデザインしたステンドグラスやタイルが、館内を美しく彩っています。

紙の博物館へのアクセス

電車での行き方

電車では3通りのアクセス方法があります。JR京浜東北線の王子駅で下車し約5分の距離。中央口からはアスカルゴを利用、南口からは飛鳥の小径を飛鳥山公園内へ入ります。東京メトロ南北線の西ヶ原駅からは徒歩約7分の距離、本郷通りを北西へ進めば公園内へ入るでしょう。または東京さくらトラム(都電荒川線)の飛鳥山停留所から徒歩約3分の距離、本郷通りを南東へ進んで到着します。

バスでの行き方

バスでは2通りのアクセス方法があります。都バス23区の飛鳥山停留所から徒歩約5分、または北区コミュニティバスの飛鳥山公園停留所から徒歩約3分。いずれも本郷通りを南東方向へ進みます。紙の博物館には専用駐車場がなく車でのアクセスは不可、公共交通機関を利用しましょう。

住所|〒114-0002 東京都北区王子1-1-3
営業時間|10:00-17:00
定休日|毎週月曜日(祝日の場合は開館)
電話|03-3916-2320
公式サイトはこちら

まとめ

紙の博物館に入るといきなり出迎える聖徳太子、そしてここ王子の地に製紙工場を提唱した渋沢栄一。ともに1万円札肖像画となる人物で、その1万円札でさえも紙が材料なのです。私たちの日常生活を取り巻く必需品について、その歴史と大切さを考えてみませんか。