恵まれている私たちが、忘れてしまったこと
日本にいる限り、何の不自由もなく、恵まれた生活を送れるように思われますが、内閣府の調査によれば、今の生活がよい方向に向かっていくと感じている日本人は、たった15%程度しかいないそうです。
経済的にも恵まれ、簡単に多くを手に入れられる環境にも関わらず、私たちは、もっとたくさんのモノを求めて、いつも何かが足りていないような感覚を持ってしまいます。
今回紹介するキプロス共和国のバローシャで懸命に生きる人たちの様子は、私たちがいつの間にか忘れてしまった、生きるために必要なことや、人としてあるべき姿を教えてくれるはずです。
地中海に囲まれるリゾート地、キプロス
国名の由来とも言われる銅鉱業が、5,000年以上も前から国の基幹産業として重要な役割を担い、ヨーロッパを代表する共和国として繁栄したキプロスですが、第2次世界大戦をきっかけに1974年に国家が分裂し、現在は南北2つの地区で成り立っています。
楽園を失った街、バローシャ
ピーク時の住民は25,000人、ホテル室数は12,000室に昇り、ハリウッドのセレブ御用達の一大リゾートとしても知られたバローシャでしたが、40年前の内紛により、住民たちは他地区への亡命を余儀なくされました。
現在、誰も入ることもないゴーストタウンとして知られるバローシャの街の時計は、40年前の混乱時のまま止まっています。
住宅のテーブルには朝食のお皿が置かれ、カーディーラーには当時の新車が並び、ブティックには1970年代のファッションが陳列されたままになっています。
「過去を水に流す」という生き方
「平和で、持続性があり、永久に続く文化」を目指して進められているこのプロジェクトについて、彼らを支援するベイシア・マルキデス氏は、「絶望的な状況であったものの、いま彼らは、一緒に未来を作るために、過去のことを水に流そうと努力している」と言います。
このプロジェクトには多くの専門家も参加して、その一人、サウス・フロリダ大学の建築学教授ジャン・ウォンプラー氏は、「何か手を施さなければなりません。
この地球上には、ゴーストタウンと呼ばれるような場所はあってはならないのです。」と、再建への意気込みを語ります。
元市民から始まったこうした想いは、いまやキプロス大統領にも共有され、一大プロジェクトとして、徐々に観光地としての再建の目処が立ち始めています。
強い心を手に入れるために
ですが、この場所に唯一ある、日常を突然奪われた人たちが立ち上がろうとする心は、贅沢な生活で慣れてしまった私たちの鈍った感覚をリセットし、生きることの本当の価値を教えてくれるような気がします。
旅行の楽しみは、美しい景色を見て、おいしい食事に舌鼓をうち、レジャーを満喫し、非日常的な体験をすることもひとつなのかもしれません。
ですが、バローシャのような場所を訪れ、避けることができない現実を目の当たりにし、それでも立ち上がろうとする人々の想いを感じることも、意義のある目的の一つのように感じます。
第6感を刺激する旅をしよう
絶景、食事といった5感だけで体験できるプランではなく、心の第6感を刺激して、自分を成長させられることが、これからの旅行のあり方なのかもしれません。