【書評】ものづくりには夢がある!「世界を変えるデザイン」/シンシア・スミス著

普段何気なくデザインの本を読んでみようと思うのは、デザイナーくらいではないでしょうか。しかし、この本は、デザイナー以外の人にも是李読んでいただきたい、デザインの本です。デザインに興味がない人が読んでも、はっと目が覚めるような、驚きを与えられるような本なのです。
タイトルの「ものづくりには夢がある 世界を変えるデザイン」そのままにデザインで、ものづくりで、アイディアで世界を変えることができるのを、教えてくれます。

残りの90%のためのデザイン


 アメリカのスミソニアン クーパーヒューイット国立デザイン博物館で、2007年に「残りの90%のためのデザイン」展が開かれました。
この本は、その記録をまとめたものです。

 「残りの90%」とは、いったい何なのでしょう。

 残りの90%とは、世界人口の90%のことのようですね。
でも、これは何ともおかしな表現。
本当ならば、世界人口の90%は主であり、残りとは10%と表現されるのが普通ではないでしょうか。

 でもこの表現で、正しいのです。
何故なら、世界は豊かな製品やサービスに囲まれた10%の人々と、それ以外の豊かとは無縁の、残りの90%の人々で構成されているからですよ。

 この構成比率に、驚く方も多いでしょう。
私達が、当たり前のように思っている製品やサービスを、同じように使える人々は、世界の10%しかいないのです。

水やエネルギーを何気なく使える人々、使えない人々

水やエネルギーを何気なく使える人々、使えない人々

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 私達は毎日、朝起きると蛇口をひねり、水を出します。
歯を磨いたり、水を飲むためです。
蛇口をひねっても水が出ないことなど、めったにありません。
水は日本では空気と同等、とまではいかないまでも、空気があるのと同じように、当たり前に手に入ります。

 たとえお金がなくて、水道料の支払いが出来ず水道を止められてしまった人でも、公園や図書館にいけば、蛇口をひねるだけで、無料で水を飲むことができますね。

 また、私たちの生活はガスや電気などのエネルギー、食料品などにも満たされています。
あまりにも当たり前だと感じるせいで、水やエネルギー、食料などを持たない人々がいることを忘れそうになります。

 でも、世界には水やエネルギー、食料などに満たされずに、生活している人々が、なんと90%もいるというのです。

世界を変えるには、どんな方法があるのだろうか

世界を変えるには、どんな方法があるのだろうか

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 この世界を変えて、なんとかすべての人を豊かにしようという試みは、今もいろいろな方法で継続して行われています。
例えば、募金を行い物資を購入して援助を行う。
先進国で使われなくなった製品を集め、製品を必要とする国で使ってもらう。
政府による、予算からの援助などがあります。

 それらの方法も、大変意味がある方法ですが、その援助をもっと効果的にする方法があるとしたらどうでしょうか。
残りの90%の人々の生活は、「デザイン」によって画期的に変えることができる。
この本は、そう教えてくれます。

 ここでいうデザインは、色や形、配置などのデザインのこと。
しかし、デザインとは色や形だけではないのです。
使いやすくするアイディアや物の本質の理解、問題解決力を、水面下に含んでいます。

 もともと良いデザインとは、色合いや見た目が良いだけではなく、使い勝手の良さや斬新なアイディアを持っています。
しかし、それを究極にまで突き詰めていくと、世界を変えることもできるとは、普通は誰もなかなか考えませんね。

 しかし、形状や使いがってを突き詰めてものづくりをすると、少しの金額で多くの人に便利な生活をプレゼントすることができるのです。

水汲みに便利なデザインって、なんだろう 

水汲みに便利なデザインって、なんだろう 

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 世界には、生活に必要な水を手にいれるために、水汲みに何時間もかける人々がいます。
そして、しばしば水汲みの仕事は、子どもや女性の仕事になっています。

 水は当然ですが、とても重いものです。
だから、水汲みはとても大変な仕事でもあります。
テレビ映像などで、水がめを頭に載せて、何度も水を運ぶ女性を見たことがある方も、多いと思います。

 水がめを持って運ぼうとすると、もっと少ししか運ぶことができないので、頭に乗せて運ぶというのは良いアイディアですね。

 でも、この本で紹介されているのは、もっと多くの水を簡単に運ぶ方法を、デザインにより実現しています。

 それは、どんな形で、どんな使い方をするのでしょうか。
あなたなら、どんなもので水汲みをしますか。

 ここでは、なんとタイヤ型のポリ容器を作っています。
そう、紐をつけてタイヤのように水を転がして運ぶ、のです。

地震の多い日本にも、必要な考え方かもしれない

地震の多い日本にも、必要な考え方かもしれない

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 この本では、水を運ぶ道具だけではなく、簡単に作れる家や、きらめくアイディアで家を快適に出来る多くの製品が紹介されています。

 ここで紹介されているのは、生活に不便を強いられている残りの90%の人々のために作られた製品です。
しかし、そのものづくりへの考え方やアイディアは、地震や災害の多い日本でも、きっと役立つのではないかとも思えます。

 東日本大震災の日本でも、多くのアイディアに満ちた製品が考えられて、震災にあった人々を助けました。

 仮設住宅が建てられるまでの間、多くの人は学校の体育館に避難して日々を過ごしました。
そんな時、周囲の目を気にしないでゆっくり眠れるように、ダンボールで仕切り、個人スペースを確保するという試みがされました。

 今現在の悩みや問題を、工夫で解決するものづくりという意味では、この本内容と同じであると思います。
震災の多い日本では、特にこの本から学べるものがあるような気がします。

わくわくするようなものづくりの魅力

わくわくするようなものづくりの魅力

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 とても大げさに言ってしまうと、この本はものづくりの悩みを解決するヒントにもなるのではないかと思うのです。
日本はものづくりの国ですが、販売には多くの人が、悩みを持っているのではないでしょうか。

 営業や広告で製品の名前を知ってもらい方法を検討し、特に製品を必要としていない人々にも買ってもらうには、どうしたらよいかを考えている人もいます。

 購入者には、他者の同じような製品と比較されるため、価格を下げて購入してもらうために、コストカットの努力も必要です。

 でも、そもそも何故その努力が必要なのでしょうか。
もしも、もともとローコストで、世界の誰もが、どうしても欲しいと思うような製品を作れたとしたらどうでしょうか?

 ものづくりの現場は、もっととても楽しくてわくわくするものになるのではないでしょうか。

本当のニースと対峙する


 この本に紹介されている製品は、どれも低価格で、エネルギーをあまり必要としないような製品ばかりです。
製品には斬新なアイディアが詰まっていますが、ひょっとしたら一番大切なのはデザインでもアイディアでも技術力でもないかもしれません。

 世界を変えるために一番大切なものは、本当のニーズを知ること、ではないでしょうか。
世界は多様で、気候も暮らしも、文化も違います。
その国で何が必要なのかは、国ごとに異なるのです。

 自分の常識や規格で考えるのではなく、とことん相手のニーズと向き合う。
そんな姿勢が、わくわくするような製品を、生む秘訣なのかも知れません。

 ものづくりの楽しさを再確認させてくれる製品達と、この本で出会ってみてはいかがでしょうか。
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