【書評】「記憶に自信のなかった私が世界記憶力選手権で8回優勝した最強のテクニック」 /ドミニク・オブライエン 著

あなたは学校の試験の時に、歴史や英単語、漢字などを記憶できなくて、困ったことはないでしょうか。
多くの人は、記憶力は生まれつきの能力だと思っています。もちろん生まれつき記憶力の良い人は存在します。しかしこの本を読むと、何歳からでもテクニックで記憶力は身に付けられるのだ、ということがわかります。
学生時代に試験で悩んだ多くの人と同じように、この本の著者もまた学生時代に記憶力が悪くて悩んでいました。ドミニク・オブライエンはそんな時に記憶術と出会い、記憶はテクニックで向上させることができるのを知りました。
そして記憶力のテクニックを磨くことで、なんと世界記憶力選手権で8回も優勝するまでになったのです。
この本は、そんな著者の学生時代や記憶術との出会いのエピソード、最強の記憶テクニックがいくつも紹介されています。

強力な記憶力は、学校でも社会でも、きっと役に立つ

強力な記憶力は、学校でも社会でも、きっと役に立つ

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 最近の小学校や中学校の教育は、ひと昔前の詰め込み教育の弊害から、ひたすら記憶させるだけの教育ではなくて、理解することや試行錯誤することが重要視されてきているようです。

 しかしそんな時代の変化があっても、漢字を憶えたり歴史を憶えたりすることが学習に重要であることは、変わっていないのではないでしょうか。

 難しい漢字を書けるようになる必要はなくても、本や新聞がすらすらと読むためには、やはり多くの漢字を覚えなければいけません。

 社会生活でも、パソコンやスマートフォンが普及した現代では、記憶の必要性は以前よりも低下していますが、もしも一度会った顧客の顔と名前をその場で記憶することができれば、ビジネスでも役に立ってくれるはずです。

 記憶力は普段は意識することがなくても、人が学生生活や社会生活を送るのにとても大切な役割を果たしています。

記憶力は開発できることができる能力


 学生時代や資格試験などで、一度に大量の内容を暗記しなければいけないときに、あなたはいつもどのように記憶しているでしょうか。

 記憶力は個人差があり、すぐに記憶することができる人も記憶するのが苦手な人もいます。
でもできるだけ忘れる量を減らすために、多くの人は何度も反復することにより、記憶を確実なものにしようとしている人が多いのではないでしょうか。
何度も何度も反復することにより、記憶を残す方法です。

 心理学者のヘルマン・エビングハウスは、アルファベットの羅列を被験者に記憶させて、それが時間とともにどれくらい忘れられていくかを調べました。
エビングハウスの忘却曲線と言います。

 そのエビングハウスの忘却曲線を見てみると、 人は記憶してからすぐに忘れ始めることが分かります。
2時間後には半分以上忘れてしまいますが、何度も反復を繰り返して記憶すると、定着率をあげることができると分かっています。

 多くの人が実践しているこの反復による記憶法も、もちろん効果があります。
ドミニク・オブライエンも、記憶には反復が重要だと言っています。

 しかし、ドミニク・オブライエンの反復方法には少し違いがあります。
反復方法は、「思い出すだけ」なのです。

記憶をとどめるために、イメージや五感をフル活用して使う

記憶をとどめるために、イメージや五感をフル活用して使う

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 なぜドミニク・オブライエンの反復方法は、「思い出すだけ」でいいのでしょうか。
その理由は、始めに憶える時に、イメージや五感をフル活用して記憶することにより、一度で強く記憶に残す方法を使っているためです。

 みなさんはとても怖い思いをしたり、驚くような経験をしたとき、後で思い出した時に細かいところまで鮮明に憶えているのに驚いたことがあるかもしれません。

 前日に食べた夕食の献立はすぐに忘れてしまう人でも、大好きな趣味に関することは一度聞くと決して忘れない人もいます。

 同じ人が同じように見て経験したことでも、記憶に残る出来事と、すぐに忘れてしまう出来事があるのです。

 その違いは、いったいなんなのでしょうか。
それは、印象に残るような出来事であるかどうか、ではないでしょうか。

 ドミニク・オブライエンは、そのような記憶のしくみを利用して、記憶したい内容を記憶に残りやすいように、イメージをフル活用した記憶法を使い記憶法を試行錯誤して磨いていきました。

ついに世界記憶力選手権で優勝

ついに世界記憶力選手権で優勝

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 そして数字や言葉、円周率など記憶したい内容に合う、記憶方法と復習方法を使い分けることで、ついに世界記憶力選手権で優勝するほど記憶力を向上させることに成功しました。

 ドミニク・オブライエンは、生まれつき記憶が得意だったわけではありませんでした。
むしろ子どもの頃、学校ではぼうっと考えごとをして授業を受けていて叱られるような子どもだったのです。
学生時代もいくら勉強しても勉強ができなくて悩むような学生でした。

 しかし、独自の記憶方法を工夫して磨き上げることにより、記憶のノウハウを蓄積していきました。

 まさに、記憶力は生まれつきだけではなく、ノウハウによって向上させることができるという証明をしたとも言えるのではないでしょうか。

記憶方法を身に付けるには、時間や努力も必要なのかもしれない

記憶方法を身に付けるには、時間や努力も必要なのかもしれない

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 基本的にこの本は、記憶法のノウハウが惜しげもなく解説されている、記憶法のノウハウ本になっています。

 しかし、実は私がこの本の効果を実感するには、少し時間がかかりました。

 初めてこの本を読んだ時に、「これは自分でもできそうだし、効果がありそうだ」とわくわくしました。
そのためすぐに書いてある方法をその場で実践してみたのです。

 しかし、記憶方法も理解できて記憶法を実践できても、何かどこかにもやもやした気持ちが残りました。
そして効果はある気がするけれど使えるだろうかという、はっきりしない状態のまま、いつしか忘れていました。

 そして一年後に偶然、また同じ本を手に取った私は、もう一度前回とは違う記憶方法を試してみることにしました。
それは20ほどの単語をイメージを使って記憶していくという方法でした。

 すると前回とは違い何故かとてもスムーズに記憶することができて、ランダムな単語の羅列をなんと1ヵ月後も記憶していることができたのです。
そして、今もその内容を記憶しています。

 これは、私にとっては不思議な体験でした。

 なぜ、前回は上手く記憶することができなかったのでしょうか。

 自分なりに考えてみると、ノウハウになじむだけの時間、そしてノウハウに馴染む時間が欠けていたのかもしれません。

初めての挑戦だけで判断すべきではないかも

初めての挑戦だけで判断すべきではないかも

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 この本を始めに読んだ時は、まだ馴染めないような違和感を感じましたが、2度目に読んだときには、馴染みの方法を使うような気持ちで実践することができました。

 これは例えて見ると、便利グッズを初めて使ってみたときの気持ちに似ているかもしれません。

 新しい便利グッズを買ってきても、初めは慣れずに使いにくく、時間が掛かってしまうことがあります。
別に買わなくてもよかったかなと思うかもしれません。
けれどしばらく使ってみると、だんだん便利さに気づき、なくてはならぬものになることもあります。

 これと同じように、記憶法には慣れも必要な場合があるのでしょう。
私のように一度使ってみてしっくりこなくても、時間をおいて何度かチャレンジしてみるのも、きっと有効だと思います。

前向きな姿勢も魅力的


 そして、この本にはドミニク・オブライエンという人間の魅力も詰まっています。
恐れずにいろいろなことに挑戦していく、ドミニク・オブライエンの前向きな姿勢も、行間から感じることができ、気持ちの良い読後感が残ることでしょう。
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