“おおきなクリの木の下で~♪” の木はアメリカにあった

日本には多くの童謡が存在しますが、その中には海外をルーツにする歌が多く存在します。歌のルーツになった場所を訪ねる旅行もプランの一つですが、爽やかで楽しげな歌のイメージをあまりに期待しすぎると、変わり果てた現実に裏切られてしまうかもしれません。


「おおきなクリの木」のルーツ

「おおきなクリの木」のルーツ
おおきなクリの木の下で

あなたとわたし

仲良く遊びましょう

童謡「おおきなクリの木の下で」は、いまも昔も日本の子供たちの間で親しまれていますが、この歌の元々のルーツは日本ではなく、イギリス民謡だということはわかっているものの、作詞者も作曲者も不明だそうです。

その後、歌は大陸を渡り、アメリカのボーイスカウトで歌われるようになった後、1941年の太平洋戦争でアメリカGHQの軍人たちが口ずさんでいたものが日本人に伝わっていったというが有力で、歌詞に登場する「大きなクリの木」の正体は、日本で見られる「ニホングリ」という品種とは違う、アメリカ固有の品種である「アメリカグリ」だと言われています。

木とともに “仲良く” 生きる

木とともに “仲良く” 生きる
私たちがよく目にする樹木の一つイチョウは、日本で植えられている街路樹としては最も多く、その数は57万本程度だそうですが、当時、アメリカグリも現地でなじみのある木で、1900年頃にはアメリカ東部の森林の25%、本数にするとなんと、40億本もの数が存在していたと言われています

アメリカグリは、その果実を食用としてはもちろん、堅くて丈夫な材質から、家具や建築の材料としても用いられ、先住民の時代から生活に身近な存在で、まるでその歌のように“仲良く”、アメリカの人々と共に時代を歩んできました。

消えていったクリの木

消えていったクリの木
歌になるほど身近にあったアメリカグリですが、その後、私たち日本人にも関係するあることが原因で激減します。
40億本あった木は、この100年ほどで、わずか200本程度までに減少し、いまや壊滅状態、絶滅の危機にあります。

その原因は、日本や中国からもたらされた病原菌でした。

何かしらの偶然でアメリカへ移植されたニホングリが持っていた病原菌は、耐性の弱いアメリカグリの木を膨張させ、枯らせてしまう「胴枯病」を蔓延させました。
クリ胴枯病が、「樹木の世界三大病害」の一つとして指定される頃には、その実を食用とすることはおろか、あれだけ安く手に入った材木は入手困難な高級材として一変することになります。

なくなった木。生き続ける歌

なくなった木。生き続ける歌
1983年にアメリカグリを保護するための財団が設立され、再生が目指されているものの、それには何百年という時間が掛かるとも言われ、メイン大学のブライアン・ロス博士によれば、いま現在、「アメリカグリの木を見つけるは、山の中で針を探すほど難しい」と言います

いまもなお親しまれている「おおきなクリの木の下で」の童謡ですが、ルーツとなった当のアメリカでは、いま現在あまり知られておらず、皮肉にもその木を絶滅の危機にさらす原因になった日本の中でほど歌われ続けています。

「仲良く遊びましょう」と、私たちが何も知らずに親しみ、口ずさんでいるこの歌詞に、加害国から被害国に対する重たい責任を感じてしまうのは、考えすぎでしょうか。

枯らせたのは、だれ?

枯らせたのは、だれ?
日本にいた病原菌がなぜアメリカまで感染していったのか、その理由ははっきりしませんし、「仕方なかった」の一言で片付けることも簡単です。
ですが、一つ考えなければいけないことは、私たちのような観光客やツアリストにより持ち込まれた可能性を否定できないということです。

私たちが海外へ訪れたときに履いていたクツや、着ていた服、そして私たち自身の体にも、良くも悪くも必ず細菌が存在していて、異国の地を一歩踏み出した途端に、それらも一緒に海を渡ることになります。
たとえ無意識であっても、それらは何十年、何百年という時代を経て、その土地の生態系を変化させ、脅威を巻き起こす原因になり得ることを、私たちは知っておくべきなのかもしれません。

私たちにできることを考える

都心から1000km、2011年に世界自然遺産登録された小笠原諸島では、こうした観光客の持ち込みにより、元々息づいていたその土地固有の生き物が食べられ、破壊されるケースが発生していると言います。
観光客は、船への乗船前と、島への上陸前にクツを洗浄するよう徹底されていますが、それでもなおこうした例は後を絶ちません。

私たちが海外へ行く際、細菌すらも持ち込まずに済む方法はまずありませんが、その土地を踏みしめるたび、私たち自身が何かしらの影響を及ぼしていることに意識を向けるだけで、変わってくることがあるように思います。

photo by iStock
Takashi Wada

Writer:

人はなぜ旅行をするのでしょうか。観光、食事、お土産・・・
その理由がなんであれ、私たちは、その土地に生きる人々から、多くのことを学べるはずです。
心理学専門、「人の心を読むライター」として、異なる環境に住む人々の文化、考え方、大切な価値観、生き様など、「 心 」をテーマにしたコラムを投稿していきます。

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