大正ロマンあふれる名実業家の邸宅「文化のみち橦木館」とは?

名古屋市東区から中区に至る地域に残る歴史的観光スポット「文化のみち」。このエリアには名古屋が誇る「名古屋城」を中心とする「名古屋城・三の丸エリア」や「徳川園エリア」、大正から昭和にかけての建築物が残る「白壁・橦木・主税エリア」に分かれており、それらは現在まで名古屋の近代化を伝える存在として長く保存されてきました。今回はその名古屋の歴史観光スポット「文化のみち」から東区にある「文化のみち橦木館(しゅもくかん。名古屋市東区橦木町2-18)」について見ていきましょう。

邸宅に住んだ人物「井元為三郎」とは

邸宅に住んだ人物「井元為三郎」とは

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この邸宅の持ち主であった井元為三郎(いもとためさぶろう)は1874年(明治7年)に名古屋市熱田区中瀬町に生まれ、明治から昭和にかけて活躍した実業家。
陶磁器業を行う会社「田代商店」で勤務を始めるとのちに神戸支店長にまで昇進、1897年(明治30年)に会社を去って独立すると自身の会社である「井元商店」を飯田町2丁目27番地に開き、輸出向け陶磁器の売買業を開始。

明治40年代に入って会社の状態が上向くようになると事業を拡大しはじめ、アメリカ・サンフランシスコに「サンフランシスコトレーディング商会」を設立。
その後はシンガポールやビルマ(現在のミャンマー)にも手を広げ、1924年(大正13年)には「名古屋陶磁器貿易商工同業組合」の組合長に就任、陶磁器業界の「重鎮」として活躍しました。
こうした活躍によって築いた富を投入して建設されたのが「橦木館」であり、為三郎はこの邸宅で輸出陶磁器の商談を行うためにバイヤーを呼んでいたことも。
ここは彼の仕事においても重要な位置を占める場所であったのですね。

その後の為三郎は1945年(昭和20年)に72歳で亡くなりますが、それまでに「名古屋商工同業者組合」理事長や「棣棠(やまぶき)小学校(現在の名古屋市立山吹小学校)」教育会長を務め、「幸福は我心にあり」をモットーとして人生を全うしました。

一時荒れた時期もあった

一時荒れた時期もあった

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現在は名古屋の歴史的観光スポットとして親しまれている「橦木館」ですが、一時は整備されずに荒れていた時期もありました。
為三郎が亡くなって以降に住人がいなくなった邸宅は「荒れ放題」と言える状態になってしまいますが、1996年(平成8年)から5組の店子が入るなどして演劇やコンサート、ファッションショーなどのイベント会場としての使用を開始。
一時失われかけた輝きは地域の人々の頑張りによって取り戻されようとしていたのです。

こうした地域の人々の頑張りもあって復活した邸宅は2004年(平成16年)から特定非営利活動法人(NPO)法人「橦木倶楽部」の維持・管理の下で毎週土曜日のみの公開・貸室を開始。
その後2007年(平成19年)に名古屋市が土地と建物の権利を取得すると暫定公開、耐震改修工事を実施。
2009年(平成21年)7月17日から晴れて一般公開が実施されるようになりました。

2階のスペースには洋室・陶磁器展示

2階のスペースには洋室・陶磁器展示

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建物に入館して最初に案内されるのは2階のスペース。
気品漂い豪華さを見せる玄関から階段を上がった先にあるのが2階の洋館で、階段を上がってすぐ左手に見えるのは化粧室。
青いタイルが張られた室内には広々としたバスルームが設置され、洋式のトイレにシャワーカーテンレールと当時としては近代的な設備が充実。
財を成した人物の暮らしぶりがいかに豪華であったかを知ることができるでしょう。
バスルーム向かいにある部屋はかつて寝室として使用された部屋で、現在は貸しスペースとして使用されています。

そうした部屋を巡った先にあるのは、陶磁器の展示スペースが設けられた洋館。
こちらに展示されている陶磁器は井元が経営していた「井元商店」が海外に輸出する目的で製造した陶磁器で、日本国内に出回らなかったとされる貴重なもの。
この地から多くの陶磁器が巣立っていったことがわかりますね。

洋室の脇にあるタイル張りのスペースにはレトロな雰囲気を出す木製の机、井元が商店で使用していた用具などを展示。
ここには壁と床でタイルの素材に違いが見られ、こうした細かいところのこだわりの違いを見てみても良いでしょう。
またこのスペースの広い窓からは周辺の街並みを見渡すこともでき、為三郎はここからの風景を見ながら何を思っていたのか想像するのも良いでしょう。
大正期の雰囲気残る建物群を見ながら「大正ロマン」を感じ取ってみては。

広々とした1階の和室スペース

広々とした1階の和室スペース

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2階のスペースを見たあとは1階の和室スペースも見られます。
受付奥にある通路には橦木館や「文化のみち」に関するパネル展示があり、その通路を抜けて見えるのは広々とした和室。
和室スペースはスリッパで上がれるように「赤じゅうたん」が敷かれていますが、そのじゅうたんも和室の雰囲気をおしゃれなものにしていますね。

その通路を抜けた最初の和室奥にあるのは当時の生活スペース。
こちらには昭和初期の生活の様子を再現しており「井元商店」のシンボルが描かれたのれん、木製のたんすや当時のアメリカ製冷蔵庫、ガス釜戸などを展示。
ここで彼らがどのような「団らんの時間」を過ごしていたのか浮かんできそうですね。
またここには江戸、近代、現代に分かれた3枚のパネルで「文化のみち」の歴史を紹介しているため、こちらも見ておきたいところ。

この部屋を抜けて広々とした和室の廊下に出ると、窓から見えるのは緑の植物が生い茂る庭園。
庭園には京都から移設された茶室「撫松庵(ぶしょうあん)」があり、こちらは茶会などの貸しスペースに。
室内を巡りながら「安らぎの時間」を過ごせるスペースですね。
こうした和室は現在貸しスペースとして使用されており、懐かしい雰囲気の中で時間を過ごす人々の姿が見られます。
2階にある近代的な洋室との違いを比較して見るのも面白いですね。

カフェで安らぎのひと時を


橦木館では大正の雰囲気を感じながら「ティータイム」を過ごせるスペースもあります。
洋館1階にある喫茶室「橦木館カフェ」はコーヒーショップ「フェアビーンズコーヒー」が橦木館の洋室部分を利用して開店した直営の店で、館内の入館料を払わなくても利用することが可能。

店ではフェアトレード&オーガニックの原料豆を使用した自社焙煎コーヒーが楽しめ、コーヒー以外では「手作りスイーツ」やランチメニューの「ドライカレー、本日の生パスタ」セットも用意。
大正の雰囲気に包まれながら安らぎのひと時を過ごしてみたいところですね。
営業時間は橦木館の開館時間と同じ10:00~17:00(ラストオーダー16:30)、ランチタイムについては11:00~14:00まで。

漫画のモデルになることもある


橦木館は漫画の中に登場することもあります。
集英社のコミック誌「クッキー(Cookie)」で連載されている漫画「ハコイリのムスメ」(池谷理香子氏作)では主人公・珠子の実家のモデルとして登場しており、作者の池谷氏とアシスタントの方は構想段階の時期にこの橦木館を見学されたことも。
2階の洋室にはここが漫画に登場していることが紹介されており、置かれている作品を読むことも可能。
漫画の世界を知っている方にとってはより館内鑑賞を楽しめるでしょうし、知らない方は作品中にどのように登場するか見たいところですね。

橦木館近くの歴史建築

Junya Higashi

Writer:

これまで旅行に行った土地は鹿児島・霧島や韓国・ソウルなど。世界の土地や風習のことなど、自分の知らない世界を調べて見るのが好きです。旅行経験やライター活動で得た知識が、これから旅行を楽しむ人の役に立てば大変嬉しく思います。どうぞよろしくお願いいたします!

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