”日本三大美肌の湯”嬉野温泉でゆったりほっこり歴史散歩

嬉野温泉(うれしのおんせん)は佐賀県の南西部に位置する、九州を代表する温泉地。肌に良いとされる成分を多く含むことで知られ、「日本三大美肌の湯」にも選ばれている名湯です。自然豊かな山間に30軒ほどの旅館やホテルが並び、柔らかで優しい肌触りの湯を求めて一年を通して多くの観光客で賑わう嬉野温泉の歴史は古く、8世紀初頭には既にその効能が知られていたとも言われています。古来より多くの人の心と体を温め続けてきた歴史ある温泉地・嬉野。その歴史とオススメスポットをご紹介してまいります。

嬉野温泉の歴史

名付け親は神功皇后?意外に古い嬉野温泉の歴史

名付け親は神功皇后?意外に古い嬉野温泉の歴史

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佐賀県の山間にある静かな温泉街・嬉野温泉。
その歴史はとても古く、『肥前風土記』(713年編纂)に「東の辺に湯の泉ありて能く(よく)、人の病を癒す」と記されているところから、1300年前には既に温泉地として認知されていたものと考えられています。
佐賀県は玄海灘と有明海という二つの海に挟まれた地形で、しかも火山がありません。
一見、温泉地とは縁の薄い県かと思いきや、嬉野温泉を始め、武雄温泉、古湯温泉など、地味ながら良質な湯が湧く温泉地がたくさんあるのです。
そのほとんどが、火山性の酸性温泉ではなく、深層水がもととなるアルカリ性。
”地獄”がブクブク湧く別府や箱根のような華やかさはありまえんが、ぬめっとした柔らかな湯を求めて、季節を問わず多くの温泉ファンで賑わいます。

嬉野温泉の歴史を語るうえで欠かせないのが神功皇后(じんぐうこうごう)の存在。
第14代仲哀天皇(ちゅうあいてんのう)の后で、夫亡きあと身重のまま朝鮮半島へ出兵して新羅を討ち、百済や高句麗も帰服させ、帰国後に第15代応神天皇を産み、その後も国政を取り仕切って100歳まで生きたという、日本神話最強のスーパーウーマンです。

そんな神功皇后、嬉野周辺に立ち寄った際、川に白い鶴を見つけます。
疲れた羽を川に浸していたその鶴がやがて元気になって飛び立つのを見て、戦で傷ついた兵士たちを川に入れてみたところ、実はそこには温泉が湧いていて、兵士たちの傷が癒えたのだそうです。
それを見て大変喜んだ皇后が「あな、うれしの(うれしや)」と言ったことが、嬉野の地名の起源だと言われています。

長崎街道の宿場町としての賑わい

長崎街道の宿場町としての賑わい

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神功皇后が実在したかどうかについては様々な説があるようですが、嬉野温泉の他にも、九州北部や壱岐などに、神功皇后にまつわる伝承が数多く残されています。
そのような言い伝えが残るほど、嬉野温泉には古い歴史があると考えてよさそうです。

江戸時代に入ると、嬉野は長崎街道の宿場町として栄え、多くの旅人の疲れを癒してきました。
江戸時代の長崎と言えば、日本で唯一の「外国との交易を行う港」。
小倉と長崎を結ぶ長崎街道は、諸大名や商人たちが行き交うだけでなく、オランダ人や中国人が江戸へ出向く際の通り道にもなっていました。
嬉野温泉は多くの人々が立ち寄る歓楽温泉としてにぎわっていたようです。
その中には、長崎オランダ商館の医師として来日していたドイツ人医師フィリップ・フランツ・フォン・シーボルトの姿もありました。

1812年(文化九年)に書かれたとされるシーボルトの『江戸参府紀行』には、嬉野温泉の特徴や泉質が詳しく書き記されています。
シーボルトは嬉野の湯で旅の疲れを癒したのだそうです。

他にも、「東西遊記(江戸時代後期の医者・橘南谿:たちばななんけい:が書き記した紀行文)」や「西遊雑記(江戸時代後期の学者・古川古松軒:ふるかわこしょうけん:が記した九州地方見聞記)」など、多くの紀行文・旅日記にも嬉野温泉の記述が残されており、観光・湯治の両面から、かなり知られた温泉地であったことが伺えます。

九州屈指の名湯に

九州屈指の名湯に

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佐賀藩直々の藩営浴場でもあった嬉野温泉。
身分に応じて利用できる浴場が細かく分けられ、大名から一般庶民まで、さまざまな人々が湯を楽しんでいたようです。

明治に入ってからも嬉野温泉は多くの湯治客でにぎわいます。
佐賀藩の藩営浴場だったところ(古湯)は、明治に入ると地元の企業の所有となりますが、大正11年に大火で全焼。
しかし大正13年にドイツ人の設計によって、新たに公衆浴場が建てられました。
木造3階建て。
赤い屋根の洋館風の可愛らしい建物は、静かな日本の原風景と不思議とマッチして、以後、嬉野のシンボルとして多くの人々に親しまれていきます。

現在の嬉野温泉は、華やかさでは別府や湯布院には及びませんが、しっとりとした落ち着いた雰囲気の温泉地として根強い人気に。
島根県の斐乃上温泉、栃木県の喜連川温泉と共に「日本三大美肌の湯」としても知られるようになりました。

源泉は17カ所あり、湯量も豊富。
浸かるだけでなく飲用としても知られていて、温泉の湯を使って炊いているという「温泉湯豆腐」は一口頬張ればお腹の中から温まるという温泉地ならではの名物。
遠方から食べに訪れるファンも多いのだそうです。

緑豊かな山間を流れる川のほとりに老舗の温泉旅館が建ち並ぶ様子は風情溢れ、時が止まったかのよう。
嬉野温泉は今も昔も変わらぬ姿で、訪れる人々の心と体を温めているのです。

嬉野温泉の歴史スポットを巡る(1)

嬉野の新シンボル「シーボルトの湯」

嬉野の新シンボル「シーボルトの湯」

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嬉野温泉の中心街、嬉野川沿いに建つ、ひときわ目立つ赤いとんがり屋根の木造洋館。
前身は、佐賀藩藩営の公衆浴場で、シーボルトも立ち寄ったことがあるというあの古湯。
1924年(大正13年)にドイツ人の設計により誕生した洋風建築の建物は、まだ各家庭に内風呂がまだ珍しかった昭和40年代頃まで、地元の公衆浴場として観光客や地元の人々に愛され続けてきました。

修復を加えながら、平成に入っても利用されていましたが、内風呂の普及による利用客の減少や、建物の老朽化などを理由に、1996年(平成8年)に閉鎖。
一度は解体されますが、地元の人々の後押しもあって、嬉野市の事業のひとつとして2010年に再築されます。
大正13年当時の姿形を再現した赤い屋根のしゃれた建物が復活。
「嬉野温泉公衆浴場 シーボルトの湯」と名も改め、嬉野の新しいシンボルとなっています。

営業時間は6時~22時。
内風呂は男女1つずつでそれほど広くはありませんが、温泉施設というより”地元の銭湯”といった雰囲気で、ふらりとやってきて湯を楽しむ人が多い模様。
料金も大人400円とリーズナブルで、有名な温泉地だからといってかしこまらず、大正ロマンを味わいながら誰でも気軽に美肌の湯を堪能できます。

風情溢れる情景を求めて・塩田津めぐり

風情溢れる情景を求めて・塩田津めぐり

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嬉野温泉がある佐賀県嬉野市には、昔ながらの風景が残る町がたくさんあります。
温泉地から少し足を延ばして、心温まる原風景を探しに出かけるのもお薦めです。

市の東部に位置する塩田津は、旧長崎街道の宿場町でもあり、街中を流れる塩田川沿いの川港を中心に物流拠点としても栄えた町。
平成17年にはその町並みが評価され、「重要伝統的建造物群保存地区」に指定され話題になりました。

鹿島や武雄といった近隣の町との間の街道を荷を引く馬車が行き交い、大変な賑わいを見せていたのだそうです。
大正4年には嬉野から塩田津の間に鉄道が開通。
物流手段として自動車が普及する高度経済成長期頃まで、交通の要衝として大変重要な役割を果たしていました。

現在の塩田津はゆっくりと時間が流れる静かな町。
車も人の往来もほとんどありませんが、幅の広い道がしっかりと整備された町並みから、川港や宿場町として栄えた頃の様子をうかがい知ることができます。
町中には、白壁と瓦屋根が美しい、歴史を感じる建物が並び、大正時代にタイムスリップしたような感覚に。
町並み散策だけでも十分楽しめますが、役所近くにある資料館では明治・大正時代の塩田津の写真や、使われていた道具類などが展示されていて、当時の様子がよくわかります。
また、週末には公開される旧家もあるので、是非立ち寄ってみてください。

nekoichi(猫壱)

Writer:

歴史と歴史小説と遺跡を愛してやまない東京都在住の主婦。子供のころからの大の時代劇ファン。国内外問わず歴史小説を読むようになり、NHK人形劇「三国志」を見て中国史にはまって大学では東洋史学を専攻。愛猫とじゃれながら歴史小説を読み漁る毎日を送っている。趣味は古地図を眺めることとカメラ片手の街散策。

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